第33章 Scheme
そう大して美味くもない飯に、二人して苦笑いを浮かべながら、それでも腹を満たすと、翔が徐に立ち上がり、白衣を身に纏った。
そしてポケットに突っ込んであった眼鏡をかけると、乱れた髪を手櫛で整えた。
「帰る…のか…?」
「うん。一応さ、在宅勤務ってことになってるし…」
「そっか…、そうだよな…。悪いな、付き合わせちまって…」
なんだ…、ずっと一緒にいられるわけじゃないんだ…
内心ガッカリと肩を落としつつも、顔に笑を浮かべた。
そうでもしなきゃ、翔のことだか、仕事もほっぽり出し兼ねない。
でもそんなの翔にはお見通しで、
「そんなこと言わないで? 明日また来るから…。それまで待ってて?」
未練たらしくするのが嫌で、向けた背中に翔の体温が重なる。
「…早く行けよ…」
離れられなくなる前に…
「うん。行くよ…」
丸めた背中にあった翔の体温が離れて行く…
一瞬、呼び止めたくなる衝動に駆られるのを、唇を噛んで堪えた。
背後で閉ざされた鉄の扉に鍵のかけられる音が響く。
まるで自分一人が取り残されてしまったような、悲しく響く音を聞いていたくなくて、頭から布団を被った。
やがて消灯時間になり、全ての明かりが落とされた。
シンと静まり返った部屋の中、ベッドに仰向けになると、格子の隙間から、丁度半分に欠けた月が見えた。
早く朝になれ…
月に願いながら、俺は瞼を閉じた。