第5章 Rule
顎を捕まれ、グイッと上向かされると、長い睫毛に縁取られた松本の瞳が俺に絡みつく。
「あの…何か…」
「強姦致死ねぇ…。ふ〜ん…。おい、マサキ」
「ハ、ハイッ」
マサキが正座の姿勢のまま、松本に擦り寄る。
「コイツ頼むわ。あぁ和、歓迎会の準備、しっかり頼んだぞ。面倒はご免だからな…」
和がチラッと俺を見やって、ククッと鼻を鳴らす。
なんだコイツら…
少なくともここでは俺を、心から歓迎してくれる気はなさそうだ。
松本は俺の顎を開放すると、また壁に凭れて小説のページを捲った。
「えっと…サトシでいいよね?」
俺は無言で頷く。
「とりあえずさ、ロッカーはオレの隣使って? で、後は…まあ追々分かると思うけどさ…」
そう言ってマサキが俺の耳元に口を寄せる。
「何があっても松本さんと二宮さんには逆らわないことだよ…」
周りには聞こえないよう耳打ちすると、壁際に置かれた折り畳みテーブルを、部屋の中央へと運び始めた。
壁の時計を見ると、丁度昼を迎えようとしていた。
昼飯の準備か…
「俺もやるよ」
俺はマサキと一緒にテーブルを運び始めた。
こういったことは、どこの世界でも新入りの仕事だということは、会社で先輩たちに嫌って程教え込まれてきたことだ。