第33章 Scheme
両脇を強面の刑務官に挟まれ、前を歩く井ノ原の背中を見つめて足を引きずりながら着いて行き、エレベーターに乗せられた瞬間、心臓がぶっ壊れるんじゃないか、ってくらいに高速で鼓動を始めた。
ウブなガキじゃあるまいし、恋人に会うのに何でこんな緊張してんだよ…
そうでなくても、場所こそ違うけど、何度となく見てる顔なのに…
「くくっ…、俺もまだ青いな…」
思いがけず口から漏れた言葉に、強面が同時に俺を睨みつける。
その後ろで井ノ原が声もなく肩を揺らした。
俺はお返しとばかりに井ノ原を睨みつけると、肩越しに振り返った井ノ原に向かって舌を出した。
その時、エレベーターが目的の階に止まり、鉄の扉が開かれた。
「降りろ」
相変わらずの命令口調に半ば辟易しながら、それでも逸る気持ちを抑えきれず、つい足が縺れる。
前のめりに倒れそうになった俺を、後ろから誰かの手が支えた。
「大丈夫…ですか? ゆっくり…」
背中からかけられる声に聞き覚えがあった。
そうだ…この声は、翔の声だ。
そして俺の腰に回された腕は…見覚えのある腕時計を嵌めたその腕は、翔の…
「しょ…、あ、ああ…大丈…夫です…」
思い切り名前を呼びたい、その腕に飛び込みたい…
どうにも出来ない願望を振り払うように、俺は小さく首を横に振ると、腰に回った腕を解いた。