第33章 Scheme
結局、井ノ原から詳しい話を聞くことも出来ないまま時間が過ぎ、何日か経った朝、俺の部屋の頑丈な鍵が、屈強な刑務官の手によって開けられた。
「出ろ」
見た事のないその顔に、俺は内心不信感を抱きながらも、姿勢を正して直立してから、その刑務官に促されるまま部屋を出た。
「あの…、俺何かしましたっけ…?」
懲罰を受けるようなことをした記憶はないが…
「詳しい話は井ノ原医務官から聞くように…」
強面の刑務官が、後に立つ俺を振り返ることなく答える。
井ノ原…?
その時になって俺は漸く、あの洗濯物に隠れるように言われた言葉を思い出した。
嘘だろ…、あの話マジだったんかよ…
現実になればいい…確かにそう思った。
でもまさか…実現するなんて、夢にも思っていなかった。
俺は自然と緩みそうになる顔に力を入れ、どうにか堪えると、一回りもふた回りも大きな刑務官の背中を見つめた。
そして幾つ目かの鍵が開けられると、俺の両手に手錠がかけられた。
この冷たい感触だけは、何度味わっても慣れることはない。
もっとも、慣れたくはないが…
「乗れ」
促されるまま、俺は病院から手配されたらしい車に乗り込んだ。
両隣りに座った刑務官に挟まれるようにして…