第33章 Scheme
「ところで俺に何か用か?」
用事でもなけりゃ、井ノ原がわざわざ診察室を抜け出してまでこんなとこに来る筈がない。
「ん? ああ、そうだった…。お前、東山さん覚えてるか?」
「ああ、覚えてるけど…」
涼しい顔して、超スパルタのリハビリさせやがって…
アイツのことは忘れたくても忘れらんねぇよ…
「その東山さんが何だよ…」
出来れば二度とお目にかかりたくはないけど…
「一度リハビリ受けに来ないか、って言ってるんだけど…。どうする?」
「どうするって…、無理だろ…」
アイツのリハビリを受けるってことは、ココから出るってことだ。
そんなこと出来っこないし、それにあの地獄のようなリハビリを受けるのは、二度とごめんだ。
「悪いが他をあたってくれ」
俺は空になった籠を重ねて持ち上げると、井ノ原に向かって片手を振りながら背を向けた。
そして引き摺る右足を一歩踏み出した時、
「そっか…、残念だな…。上手くいけば櫻井さんに会えるかもしれないのに…。そうかそうか…」
からかい口調と、笑いを含んだ声に俺の足はピタリと止まった。
「今…なんて…?」
手に持った籠を地面に置き、ニヤケ顔の井ノ原の胸倉を掴んだ。
「えっ? ああ、残念だなって言っただけだけど?」
「違うよ、その後だ…」
「櫻井さんのこと?」
マジ…かよ…
翔に会えるのか?
この閉鎖された檻の中じゃなくて…?