第32章 Result
その後、岡田は深山さんを通じて小栗さんに連絡を取った。
元々この件に不信感を抱いていた小栗さんは、ずっと疑問に感じていた事が明らかになったことで、酷く安心していたらしい、と後になって深山さんから聞かされた。
俺達は新たに加わった“証拠“を、裁判所に“証拠物件”として提出した。
勿論、小栗さんから受け取った、“偽の”鑑定結果と併せての申請だ。
「これで被害者の体内に残っていた残留物が大野の物ではないと証明されれば、強姦罪については全くの無実と言うことになるな」
「そうだな…」
若干浮かれ気味な岡田に対して俺はと言うと、そこまで浮かれる気分にもなれなかった。
まだだ…
まだ今のこの状況に満足しちゃいけないんだ…
俺達が現状求められるのは、“強姦罪”に対する刑の無実のみ。
“殺人罪”については、無実を証明出来るような証拠は、何一つ手にしていない。
それだけじゃ駄目なんだ…
もっと、もっと…
気持ちだけが焦って、一度は飛び上がる勢いで喜んだ筈のことにも、素直に感情を表すことが出来なくなっていた。
「言ったろ、櫻井。俺達は漸く一歩を踏み出したばかりだ、って…。そんな暗い顔ばかりしてたら、先は見えて来んぞ?」
「そう…だけと…」
「ほら、胸張れ。大野のために命かけるって誓ったんだろ? だったら顔上げろ」
「そうだな…。そうだよな…。俺が下向いてちゃ駄目だよな…」
俺の背中を叩く岡田に促されるように、俺は俯かせていた顔を上げた。