第32章 Result
「櫻井…」
岡田が俺の肩に腕を回して、乱暴に揺さぶる。
「あ、ああ…」
それでも俺は目の前の現実が受け止められなくて、呆然としてその場に立ち尽くした。
「大丈夫か?」
もう一度岡田が俺の肩を揺する。
その時になって俺は漸く自分が泣いていることに気が付いた。
「夢…じゃないよ…な? そ、それとも誰か他人の…」
「おい、お前何言ってんだ?」
だって…
だって…
「ほら、よく見てみろ。ここに確かに“大野智”って書いてあるだろ?」
冊子状になった報告書の表紙を指で弾き、岡田が今度は俺の背中をバシッと叩いた。
「そ、そうだよな…、智君ので間違いないんだよな? な?」
叩かれた背中がジンと痛んだ。
でもそれよりも何よりも、腹の底から湧き上がって来る高揚感の方が強くて…
俺は今にも叫び出したくなる気持ちを、口を手で塞いで無理矢理抑えこんだ。
そうでもしなきゃ、俺はここが事務所だってことも忘れて、気の赴くままに飛び跳ね兼ねなかった。
「やったな、櫻井」
「ああ!」
これが決定的な証拠になるわけではないが、大きな進歩であることは間違いない。
俺達はお互い顔を見合わせると、自然と零れる笑みを隠すこともせずに、握手を交わした。
「これからだぞ、櫻井」
「分かってる」
俺達はまだ、スタートラインに立ったばかりだ、ってことを…