第32章 Result
「お、おい、もう少し言い方ってもんがあるだろ…」
岡田が深山さんを窘める。
でも深山さんは意に介した様子も見せず、尚も言葉を続けた。
「だって井ノ原先生は大野さんの主治医みたいなもんでしょ? それに、病院に担ぎ込まれた時も、担当医師から詳しく話も聞いてるだろうし…」
それには流石の岡田も苦笑混じりに頷くしかなく、一つ咳払いをすると、事の次第が分からず瞼を瞬かせる長野刑務官に向かって苦笑混じりに頭を下げた。
「えっと…、実は井ノ原医務官には、もしこの件で証言が必要となった場合についてお話させて頂いてて…」
岡田と深山さんの遣り取りに痺れを切らした俺は、それまでソファーに深く埋めていた腰を少しだけ浅くした。
「それは…、やはり医師として…ですか?」
「ええ、そうです。井ノ原医務官には、医師の観点からの証言をして頂けないかと…」
理由はそれだけじゃない。
井ノ原医務官に協力を仰いだのは、何より井ノ原医務官が智君を信頼してくれているからだ。
そして智君もまた、彼に全幅…とまではいかないにしても、信頼を寄せていることは間違いない。
そうでなければ智君はもっと以前に壊れていたかもしれない。
井ノ原医務官のサポートがあったからこそ、智君は…
ひょっとしたら井ノ原医務官の存在は、智君にとって大きな味方になり得る可能性もあるのではないか…
俺達はそう判断した。