第32章 Result
長野刑務官は長く息を吐き出すと、そっと瞼を伏せた。
その後暫くの間そうしていた長野刑務官だったが、瞼を閉じたまま柔らかな笑顔を浮かべ、小さく頷いた。
「分かりました。協力しましょう。但し、俺はこの“刑務官”と言う職に誇りを持っています。なので、出来ることなら俺のことは…」
自分の身を守りたいのは誰だって同じだ。
それが国家権力の下に位置する刑務所という機関の威信を脅かすかもしれないとなれば、尚更だ。
「勿論善処はします。ただ、今後の展開によっては、もしかしたら…ってことも…」
珍しく弱気な口調で岡田が言うのを、長野刑務官は責めるわけでもなく、穏やかな表情(かお)で聞いていた。
そして俺達に向かって姿勢を正すと、ピンと指先を伸ばした右手を額に当て、敬礼の姿勢をとった。
「ありがとうございます…」
清々しいまでの長野刑務官の行動に、俺達は揃って頭を下げた。
「あ、あの…、もう一つだけお聞きしても…?」
敬礼の姿勢を解いた長野刑務官が、両手の平を膝の上で組んで身を乗り出した。
「はい、なんでも…」
「井ノ原医務官はこのことを…?」
「ああ、井ノ原先生のことだった心配はいらないんじゃないですか? だってあの人全部知ってるでしょ?」
長野刑務官の問に、深山さんが実にあっけらかんとした口調で返した。