第31章 Friction
「そろそろ店閉める時間なんやけど…」
顔を突き合わせて黙りこくったままの俺達の前に、申し訳なさそうに眉を下げた茂さんが立つ。
そうか…
もうそんな時間なのか…全然気にしていなかった。
「すまんなぁ…」
「いや、俺達の方こそ遅くまですまん」
テーブルの上の資料を掻き集め、岡田が茂さんを見上げる。
「あ、悪いけど今日のことはうちのボスには…」
岡田が人差し指を口に当てる。
今回の件は外部に漏らすわけにはいかないという、岡田なりの判断なのだろう。
それが例え所長であっても、だ。
尤も、俺達の仕事には守秘義務ってのがあるから、当然のことなんだけど…
それを茂さんも良く分かっているから、岡田が全てを言わなくても、仕草だけでその意味を理解してくれる。
「あの、一つ確認なんですけど…」
伝票を手に、席を立とうとした俺達を、小栗さんが引き留める。
「櫻井さんは本気で証言台に立つつもりで?」
「ああ、そのつもりだけど…。それが何か?」
「いえね、櫻井さんのお父様は、あの櫻井俊弁護士なんですよね?」
「そう…ですけど…」
出来ることならここで父さんの名を聞きたくはなかったけど…
それも仕方ないのか…
この業界では、俺があの人の息子だってことは有名な話だし…
それは検察側にとっても同じことなんだろうな…
尤も、俺としてはあの人の息子と呼ばれることに、いい加減辟易としているけど…