第31章 Friction
漸く掴んだと思った糸口だった。
でも深山さんの一言に、その糸はプツリと音を立てて切れた。
誰もがそう思っていた。
でも俺は…
「あの…、それって…、さと…大野智の体液をもう一度採取したら…確かめられないのかな?」
「それは可能と言えば可能だけど…」
岡田が口篭るのは、恐らくそれが“精液”であることが条件だと思っているからだろう。
でも必要な検体が“体液”であるのなら、何も“精液”である必要はないんではないか、俺はそう考えていた。
「唾液、とかでも可能…なんですよね?」
「まあ、体液であれば恐らくは…」
ならばここで躊躇っている時間はないんではないか…
「今すぐ接見に…」
「まあ、そんなに焦るな…」
俄に落ち着きを失くし始めた俺を、岡田のゆったりとした口調が制した。
「お前の言いたいことは分かる。お前が急く気持ちもな? でもな、櫻井? ここはこれまで以上に慎重に動いて然るべきなんじゃないか?」
「そうですよ、櫻井さん。あなたと大野智の関係に関しては、深山から簡単に話は聞いてます。だから貴方の気持ちは分かる。でも急いては事を仕損じると言うでしょ?」
それは分かっている。
でも…でも…
こうしている間にも、あの人の魔の手が智君に伸びているかもしれない…
そう思ったら、いても立ってもいられなかった。