第31章 Friction
「で、ですね…」
小栗さんが一つ咳払いをして、尚も言葉を続ける。
「もうお気付きだとは思いますが、ここに書かれている“Se”と“se”ですが、一見すると同じ物のようにも見えますが、実はこれが問題なんです」
確かに言われる通り、素人目で見れば、単なる記載ミスにも見えなくはない。
「まずこの大文字で書かれた“Se”ですが、こちらを分泌型とします。そしてこちらの小文字で書かれた“se”を非分泌型としましょう。この分泌型の体液からは、人のABOいずれかの血液型を判明することが出来ます。でも、逆に非分泌型の方は、それが含まれていないんです。これはごく稀なケースなんですけどね?」
「と、言うことは…つまり…」
岡田の目が食い入るように、二枚の用紙の上を行き来する。
「そうです。どちらかが偽装された物、と言うことになりますね」
なんてことだ…
まさかそんなことがあって良いのだろうか…
「で、小栗さん、あんたはどっちだと?」
岡田の目の奥がキラリと光る。
この目は何かを掴んでいる時の目だ。
「くくく、敢えてそれ聞きますか? だってもう答えは出てるじゃないですか。違いますか、岡田さん?」
小栗さんと岡田が顔を見合わせてニヤリと笑う。
そして二人の手が、ほぼ同時に一枚の用紙を指差した。