第31章 Friction
「そう…ですねぇ…。俺自身は、彼の担当と言うわけではないので、お話出来ることも限られているとは思うんですが…」
そこまで言って小栗さんは指の先で弄っていた煙草に、俺達に一言断ってから火をつけた。
そしてフッと煙を吐き出すと、眉間に皺を寄せ、軽く首を捻った。
「あの…何でもいいんです。話せる範囲で構わないので…」
その状況に焦れた俺が口を開くと、小栗さんはまだ長い煙草を灰皿に揉み消し、両腕を胸の前で組んだ。
「実は、彼の担当をしたのは、俺の直近の先輩検事でしてね…。彼の話によれば…、もっともここから先は、推論に過ぎないんですが…」
それでもいい。
些細なことだって構わない…情報が得られるのであれば…
「この事件は、何者かによって仕組まれた物ではないかと…」
小栗さんのその一言に、その場にいた全員がゴクリと息を飲んだ。
「その…、仕組まれたと言うのには、何か明確な理由が? それともただの推測なのか…」
「岡田さん…でしたっけ? 俺もこう見えて法の下にいる人間です。確かに“推論”とは言いました。けど、何の根拠もなく推測を述べるような真似はしませんよ」
この人は違う…
今まで見てきた何人もの検事とは、確実に違う。
それが何なのか…はっきりとした理由は分からない。
ただ、俺達にとても近しい考えを持った人間であることは、その言動からも容易に見て取れた。