第31章 Friction
その電話がかかってきたのは、丁度程良く酔いが回ってきた頃だった。
「ちょっと悪い…」
けたたましく鳴り響くスマホを手に、俺は廊下へと出た。
表示されていたのが、父さんの名前だったから…
「もし…もし…」
いつからだろう、父さんからの電話に、手と声が自然と震えるようになったのは…
「ああ、私だ。実はお前に会わせたい人がいるんだが…。次の休みにでもどうかと思ってな…」
俺に会わせたい人…?
「会っておいてお前に損はないと思うがな…」
誰だ…
「あの、すいません…。暫く休みが取れそうもなくて…」
出来れば今は誰の顔も見たくたい。
それが例え俺にメリットを与える相手だとしても…
それが幼い頃から、俺がずっと尊敬してきた父さんであっても…
今は…
「そうか、それは残念だな。まあ、また気が変わったられんらくをくれ。私から先方に話は通しておくから」
気味が悪い程あっさりと引き下がった父さんに、若干の違和感を感じながらも、電話を切った俺はリビングへと戻った。
「電話、誰からだ?」
余程冴えない顔をしていたのか、岡田が俺の顔色を窺う。
「親父だよ…」
「良かったのか?」
「別に大した用でもなかったから…」
「ならいいんだが…。それより、今日は泊まってくんだろ?」
「そうさせてくれるか?」
酒も入っている事だし、何より今は一人でいたくない。
「かまわんよ。最初からそのつもりで誘ったことだし…」
今はその気持ちに甘えてもいいか…?