第31章 Friction
空きっ腹に酒は身体に良くないからと言う岡田の薦めで、軽い食事を済ませてから、俺達は漸くビールのタブを引いた。
「ところで、今日非番だっただろ? 何してた?」
ビールを一口煽り、岡田が口元を手の甲で拭った。
「どこって…、特に…」
言えない…
何の了承もなく、松本の元を尋ねたなんて知ったら…
「たまにはドライブもいいかな、と思ってね」
上手く誤魔化したつもりだった。
「ふーん、そうか…。その割りには、随分と疲れた顔をしているが?」
岡田の目が、俺の顔を覗き込むようにして見つめる。
「久しぶりに長距離を走ったから、疲れただけだよ」
俺は出来るだけ動揺を気取られないように、平静を装うと、乾いた喉にビールを流し込んだ。
「ふん…、ならいいが…。それより、例の件とうなった? 調べはついたのか?」
プライベートの時間まで仕事の話か…
俺は内心辟易としながら、箸で刺身を摘むと、それを口に放り込んだ。
「…いや、まだ何も…。そう簡単にはいかないよ…」
俺の中でその答えはとっくに出ている。
でも今それを岡田に明かすのには、俺にもそれなりの心の準備というのが必要になる。
「まあ、そうだよな…。簡単じゃないだろうな…」
良かった…
俺の吐いた嘘を、岡田は何も疑ってはいない。
「なあ、仕事の話はもう止めにしないか? もっと違うことを…」
と言っても、俺達を繋いでいるのは“仕事”だけで、それ以外には何も思いつかなかった。