第31章 Friction
「俺ん家で飲まないか?」
岡田から返って来たのは、以外な言葉だつた。
てっきり外で飲むとばかり思っていた俺は、一瞬返事に困ったが、でもその方がゆっくり落ち着いて飲めるだろうと思って、それを了承した。
「じゃあ、待ってる」
そう言って切れた電話を助手席のシートに置き、車のエンジンをかけた。
岡田の家に行くのは何も初めてじゃない。
ただ随分長いこと行って無いのは確かだ。
頭の中のナビが忘れていなければいいが…
若干の不安を抱えながら、俺はアクセルを踏み込んだ。
途中、スーパーに立ち寄り、アルコールと簡単なツマミを買い、漸く岡田の家に着いた頃には、外はすっかり日も落ちていた。
二台分あるガレージに車を停め、簡素な門扉を開くと、岡田が待ち兼ねたように玄関のドアを開けた。
「随分遅かったな?」
「ちょっと買い物したりしてたんでね…」
俺は手に下げた袋を少し持ち上げて見せると、岡田はそれを軽々と持ち上げ、玄関のドアを大きく開けた。
「むさ苦しいトコだが、まあ入れ」
「うん、お邪魔するよ」
岡田の家は、ご両親が健在な頃からずっと住み続けている戸建てで、ご両親の他界した今は岡田が一人で暮らしている。
「お前、飯は食ったのか?」
「…いや…」
そう言えば、朝軽く食べたきり、何も口にしていないことを思い出した。