第31章 Friction
茫然自失のまま車に乗り込んだ俺は、ふと助手席のシートの上で点滅を繰り返すスマホに目を向けた。
誰からだろう…
非番の日に電話がかかって来ることなど、滅多にないのに…
内心、父さんではないか…、そう疑いながらも、俺は着信履歴を開いた。
「えっ…、なんで…?」
そこに表示されていたのは岡田の名前で、ご丁寧に留守電まで残されていた。
とは言っても口下手な岡田だ。
留守電に残されていたのは、たった一言「俺だ、電話くれ」それだけだったけど…
それでも着信の相手が岡田だったこと…
そして何より、ぶっきらぼうではあるけど、岡田の声が聞けたこと…
それだけで俺の心に刺さった無数の棘が、ほんの僅かだけれど、抜け落ちたような気がした。
俺はすぐに岡田に電話をかけた。
誰でもいい…
声だけでもいい…
今は何もかも忘れたい。
「おお、櫻井か」
スマホを耳に当てると、コール音がなると同時に聞こえてきた、耳慣れた声。
「何だよ、超早いんだけど…。何か急ぎの用事だった?」
「いや、特に何もないが、たまには一緒に飲まないかなな、と思ってな?」
たまには、か…
岡田とはつい最近、深山さんの従兄弟が経営する居酒屋で飲んだばかりだけどな…
「ああ、いいよ。ただ、俺今出先だから、一度マンションに戻ってからになるけど、それでもいいか?」
弁護士が飲酒運転で捕まったりしたら、それこそ洒落にならないからな。