第30章 Suspicion
「あっ…」
厨房でフライパンを振っていた深山さんが、小さな声を上げて、その手を止めた。
そして、それまでフライパンの中の具材に注いでいた視線を、カウンターに座る俺達に向けた。
「どうした?」
「いや…、例の森田だけど…」
「ああ、森田がどうした?」
岡田が空になったジョッキをカウンターに置き、袖を捲った両腕を組んだ。
「普通なら、自分に不利になるって分かってるのに、虚偽の供述をするってことは、ないんだよね? “普通”なら…」
そうだ。
でも森田はそれをしなかった。
多くの証言も得ているのに、だ。
「ってことは、そうならない“何か”があるってことなんじゃないかな、ってさ…」
そう言って、深山さんがフライパンの中の料理を皿に移した。
そしてニヤリと口の端を上げて笑うと、皿を俺達の前に置いた。
「お前、その“何か”が何なのか、分かってんだろ?」
深山さんに煽られるように、岡田も片眉を上げて深山さんを見上げると、割り箸を手にした。
「くく、流石岡田だ。…と、言いたいところだけど、折角の料理が冷めてしまったら、食材に申し訳ないからね」
厨房から出てきた深山さんは、岡田の隣に腰を下ろすと、丁寧に手を合わせてから、自分の作った料理に舌鼓を打つた。