第30章 Suspicion
その晩、俺達は久々に酒を酌み交わした。
とは言っても、まだまだこれからの長い戦いを考えれば、思う存分…なんてわけにもいかず…
たまたまタイミング良く連絡を貰った、深山さんの従兄弟が経営する店の一角を借りて、ささやかな祝杯を上げることにした。
そこは一風変わった、独特の雰囲気の店で、驚いたことに、厨房では深山さんが、それは器用にフライパンを振っていた。
「意外だな…」
深山さんとは長い付き合いの筈の岡田が、ポツリ呟く。
すると、他の客の相手をしていた、深山さんの従兄弟だと言う男性が、岡田の肩を叩き、
「アイツがね、料理をしてる時は、事件のこと考えてんですよ」
と、俺達の肩に腕を回しながら言った。
その証拠に、深山さんは俺達と目を合わせることもしないし、当然会話だってしない。
「何考えてんだろうな?」
隣でジョッキを傾けながら、岡田がポツリ呟く。
「ああ、本当だな…」
もしも深山さんが考えている事が、智君の関わった事件の事であって欲しい…、と願ってしまうのは俺の我儘なんだろうか…
「飲めよ、櫻井」
一向に減らないジョッキを、岡田の指がピンと弾く。
「どうせ大野のことでも考えてんだろ? 顔に書いてあるぞ?」
まずいな…
岡田には隠し事は出来ないな…
俺は自嘲気味に笑って、ジョッキを傾けた。