第30章 Suspicion
目の前で、智君がクスリと笑う。
それを見て、俺も笑いが込み上げてきて…
本当は声を上げて笑い合えたら…
そんなことを思いながら、俺達は声を殺して笑った。
「元気そうで良かった」
一頻り笑って、呼吸も整いかけた頃、俺はポツリと…独り言のように呟いた。
「ああ、お前もな? それに…強くなった」
「強くなんてないよ…」
でも、もし俺が本当に強くなったんだとしたら、それはきっと…
「あ、そう言えば松本と会ったんだってな?」
「えっ、ああ、うん…」
松本とは出所以来、直接顔は合わせていないが、長瀬さんからは度々連絡を貰っている。
「俺のこと…色々聞いてんだよな…?」
以前収監されていた刑務所内で受けた暴行のことを言っているんだろうか…
「それは…まあ…」
「そっか…。アイツさ、根は良い奴なんだ。でも不器用、っつーか…。アイツのこと責めないでやってくれるか?」
分かってる。
彼が君のためにしてきた、ってことも全部…
でも、理由はどうであれ、智君の身体に触れたことだけは、どうしても許せない。
私情は持ち込めないって、十分かってるのに…
「それから…なんだっけ…。お前と会ったら話そうと思ってたこと山程あったんだけどな…。いざとなると、全然出てこねぇや…」
それは俺も同じだよ…
俺も智君と会ったら…なんて、アレこれ想像してたけど…
結局、思い描いたことの一つも言えてやしないんだから…