第30章 Suspicion
「よし、今日の所はこれくらいにしておこうか」
岡田がノートを閉じ、ペンを置いた。
「流石に疲れたろ?」
その問に、智君がパイプ椅子の背凭れに深く背を預け、大したことないとばかりに首を横に振った。
「そうか…。だがな、今はそうでも、本当の闘いはこれからだからな?」
その通りだ。
闘いはまだ始まったばかり…
それは俺も同じだ。
休んでいる暇は、一分たりともない。
「さて…そろそろ時間だな…」
壁の時計に視線を向け、岡田がノートを鞄の中に仕舞った。
それを見て俺も慌ててタブレットを閉じ、鞄に仕舞おうとしたその手を、岡田の手が止めた。
「また五分ある。ここから先はお前に任せるよ、櫻井弁護士」
そう言って俺の肩をポンと叩いて、岡田が面会室を出ていく。
その背中を見ながら、戸惑いを隠せない俺は、取り敢えず気持ちを落ち着かせようと、深呼吸を繰り返した。
ここが例え面会室であっても、智君と二人きりになるなんて…
思ってもいなかった。
それなのに…ひたすら動揺する俺を他所に、
「で? 俺に聞きたいことは?」
智君の、少しだけ笑いを含んだ声が、閉された面会室に響いた。
「俺が聞いたら、何でも答えてくれる?」
自然と声が震える。
智君の前で弱い姿見せたくないのに…