第30章 Suspicion
「その雑誌は、今は…?」
いつになく目の奥に鋭い眼光を光らせた岡田が、俺の肩を揺さぶる。
「多分まだあると思うけど…」
俺の記憶が確かなら、智君に関わる物の全ては、捨てることなく、ダンボールに詰め込んでクローゼットの奥に仕舞ってある筈。
もしまだ雑誌が俺の元に残っているとしたら…
あのダンボールの中だ。
「これはあくまで“仮定”だが、もしもその雑誌から、大野自身と、その管理人の奥さんの指紋が採取出来れば、大野のアリバイが証明出来るかもしれん」
指紋…?
そんなこと考えたことも無かった。
「で、でも、それはそうだとして、事件からはもう随分と月日が経っているのに、指紋の採取なんて可能なのか?」
鑑識の話では、二、三ヶ月で消えてしまうと聞いたことがある。
もしそれが本当なら、もう指紋なんて残っていない可能性がある。
「ああ、確かにな。でもそれは、ガラスやプラスチックなんかの場合だ。紙に付着した指紋は、保存環境にもよるが、最低でも一年近くは残るらしい」
「じゃあ…その雑誌に指紋が残されてる可能性は…?」
「十分に有り得る」
ほんの僅かだ…
もしかしたら、脆くすぐに崩れてしまうような、淡い期待かもしれない。
でも…
それでも俺達は、その小さな希望に賭けよう…
言葉ではなく、絡めた視線でそう誓い合った。