第30章 Suspicion
智君は淡々と、でもしっかりとした口調で、時折思い出す様に首を捻っては、事件当日のことを話し続けた。
そこには、俺達がそれまで知り得なかった情報もいくつか含まれていて、その度に俺は指を、岡田はペンを走らせた。
「大体君の話は分かった。君の事件当日の行動もね。ただ、それを証明する”モノ”が、今の所見当たらないんだが…」
岡田がペンを置き、ノートを捲る。
そしてあるページでその手を止めると、再びペンを握った。
「君は彼女の部屋を出てから、その足で恋人のマンションに向かった、と言っていたが、それを証明出来るモノ…例えば人でもいいんだが…」
確かにあの日、俺が帰宅した時には、智君は俺の部屋にいた。
それは紛れもない事実だ。
でも、智君が彼女の部屋を出てから、俺が帰宅するまでは凡そ八時間。
その空白の時間を証明することは、俺にも不可能だ。
「そうだな…、仮に、だよ? 誰かと擦れ違ったとか、若しくは彼女からその恋人のマンションに向かう際、どの道を通ったとか…。何でもいいんだ、思い出してみてくれないか?」
彼女の部屋から俺のマンションまで、最短距離で歩いたとしても約三十分。
その間には、幾つかの防犯カメラだって設置されている筈だ。
ただ、これだけ時間が経ってしまうと、その映像が残されているかと言えば…残っていない可能性の方が高いのかもしれない。