第30章 Suspicion
ゆっくりと、少しだけ右足を引き擦るように、でもしっかりとした足取りで、こちらに向かって歩いて来る智君。
以前会った時に比べると、随分顔色が良くなったように見える。
「どうぞ」
岡田が丁度俺達の向かいにある椅子に座るよう促す。
「では…」
刑務官が部屋を出て行き、面会室には俺と岡田、そして智君の三人だけが残された。
元気だった?
風邪引いてない?
言葉が次々と溢れてくる。
でもそれを口にすることが出来なくて、俺はテーブルの上で握ったコブシに力を入れた。
「少しは慣れたか?」
俺達の間に流れた空気を断ち切るように、岡田が口を開いた。
「体調も良さそうだな」
「ああ…。前のトコよりはここの方が、ずっと楽だしな…」
久しぶりに聞く智君の声に、目頭が熱くなる。
「そっか…、そうだな。それなら安心だ。な、櫻井弁護士?」
「えっ…ああ、そうです…ね…」
突然振られて、慌て返した俺の声は、気持ち上擦っていた。
「あのさ…、余分な話はいいから、とっとと本題に入ろうぜ?」
智君がテーブルの上に両腕を組み、少しだけ身を乗り出す。
ああ…、手を伸ばせは触れられるのに…
その細い身体を、折れるくらいに強く抱き締めたいのに
こんなにも近くに智君がいるというのに…
この僅かな距離がもどかしい…
でも今は…
耐えなきゃいけないんだ。