第30章 Suspicion
エントラントに降りて岡田の到着を待つ間、俺は何度も深呼吸を繰り返した。
接見に行くだけ…
俺は俺の仕事をするだけ…
なのにこの妙な緊張感は、相手が智君…だからなのだろうか…
黒塗りのスポーツタイプの車が滑るようにエントランスの前で停り、パワーウィンドウが開くと、岡田が顔を出す。
「どうした、随分と気合いが入ってるようだけど?」
「そうでもないよ。それより急ごう」
助手席に乗り込みシートベルトをすると、隣の岡田を見ることなく、視線を車窓に向けた。
「肩、力入ってるぞ?」
そう言って俺の肩を一つ叩き、岡田がハンドルを握る。
自分でも分かってる、力が入り過ぎていることは…
でもその抜き方が、今の俺にはどうやったって思いつかなくて…
兎に角重い身体を、若干固めのシートに深く沈めることしか出来なかった。
それを岡田は見抜いていたんだ。
「お前の気持ちは分からんでもないがな…。でもな、櫻井? お前がそんな緊張してたら、大野はもっと緊張するんだぜ? そしたら、聞き出せる話も聞けなくなるんだぞ?」
岡田の言う事はもっともだった。
俺達弁護士は、依頼人でもある受刑者の要望を叶えるのは当然だが、受刑者から如何にして話を聞き出すか…
それが俺達に課せられた最大の役割でもある。
なのに俺は…