第30章 Suspicion
部屋に入ると、鞄をソファーに置き、シャワーを浴びた。
熱い湯を頭からかぶり、全身を洗い流すと、身体に溜まっていた疲れも一緒に流れて行くような気がした。
火照った身体にバスタオルだけを巻き付け、キッチンへと入ると、随分前に買っておいたビールを開けた。
岡田には悪いが…いいよな、少しだけなら…。
缶ビールを手にソファーに座ると、鞄の中から愛用のタブレットを取り出し、電源を入れた。
これまでの公判資料も、新たに作成した資料も、全てデータは入力済だ。
後は明日、これを元に智君と…
智君の口から何が語られるのか…
想像すると不安が全く無いわけではないが、でもそれも俺達のこの先の未来を考えれば、何も怖くはない。
そうだ…、俺達には岡田という心強い味方もいる。
それに長瀬さんだって、侑李だって…
井ノ原先生や長野さん…そして松本。
俺達は一人じゃない。
そうだろ、智君…。
朝、いつもよりも早めにセットしたアラームで目を覚ました俺は、冷たい水で顔を洗うと、いつもはセットしない髪を、ジェルで固めた。
丁寧に髭を剃り、着替えを済ませると、カッターシャツの襟元にネクタイを通した。
俺が今の事務所に就職を決めた時、智君と一緒に選んだ赤地にブルーの細いラインの入ったネクタイ。
このネクタイを、彼は覚えているだろうか…