第30章 Suspicion
「じゃあ明日」
助手席のドアを開け、降り際に運転席の岡田に声をかけた。
“鉄の男”の異名を持つ岡田だが、やはりここ数日のハードスケジュールが影響しているのか、酷く疲れた顔をしている。
それでも岡田の車でマンションまで送って貰うのが、いつの間にか当たり前になっている俺は、いつもと変わらない詞をかけて、車を降りた。
「運転、気を付けてな?」
「ああ。お前も今日はゆっくり休め。明日の大野の話次第じゃ、忙しくなるかもしれんからな」
そうだ…
智君の証言が得られれば、もしかしたら智君の冤罪を晴らすことだって出来る筈。
「それからな、櫻井。明日大野の口からどんな話を聞かされるのか、俺にも正直分からんが…。でもな、これだけは言っておく。とことん向き合うと決めたなら、どんな辛い話を聞かされたとしても、決して弱音は吐くな。アイツも相応の覚悟があってのことだろうからな…」
「覚悟は出来てるよ」
でなきゃ、もう一度弁護士バッジを付けようなんて、思わなかったから…
「ならいいけど…。ま、取り敢えず明日の朝は少し早めに迎えに来るから」
俺が小さく頷いたのを確認して、岡田は視線を車窓に向けた。
そしてゆっくり走り出した車のテールランプが見えなくなるまで見送ってから、俺は漸くマンションのエントラントを潜った。