第30章 Suspicion
全ての準備を終えたのは、申し立てがあったと知らされてから、一週間を過ぎた頃だった。
「よし、取り敢えずは、これを持って明日、大野んトコ行くか?」
岡田が肩を回しながら、首を左右に傾げては、音を鳴らした。
本当は俺の方が肩凝ってるけど…
パソコンと、岡田の走り書きのようなメモとの往復で、オレの両目はもう開いていることさえ億劫になる程だった。
「いよいよだな、櫻井」
「そうだな、いよいよだ…」
まだまだ先は長い。
そんなことは、俺達にも十分過ぎる程分かっていた。
ほんの一歩だ…
でもその小さな一歩にも、達成感のような物を感じていた。
「よし、一杯飲んで帰るか?」
「はあ? 冗談だろ? 俺は帰って寝るよ」
明日のために…いや、これからいつまで続くか分からない戦いのために、今は少しても体力を温存しておきたい。
「それに、智君に会うのに、二日酔いの冴えない顔は見せたくないし」
それが例え、アクリル板を挟んだ、弁護士と受刑者の間柄であっても、だ。
「言うようになったね、お前も。ま、お前の言うことにも一理あるってことで、今夜は大人しく帰るか」
「ああ… 」
俺はデスクの上の資料を鞄に詰め込み、先に帰り支度を済ませた岡田と共に、事務所を出た。