第4章 Confusion
「俺いつものね。櫻井は?」
「俺も同じものを…」
「りょ〜かい。奥の席空いてるから、使ってや?」
注文だけを済ませると、俺と岡田は店の一番奥、人目に付かない席に座った。
古くからあるこの喫茶店は、事務所のすぐ隣のビルということもあって、事務所設立当時から懇意にしているらしく、俺達がここで話したことも、外部には漏れないよう、最大限の配慮も忘れてはいない。
「はい、お待たせ。ゆっくりしてってや」
俺達の前にそれぞれコーヒーカップが置かれる。
コーヒーの香ばしい匂いに、少しだけ心が和らぐ。
「なあ、櫻井? お前、知らなかったんだよな? 彼女の存在」
コーヒーを一口啜って岡田が言う。
俺はそれに無言で頷いた。
「だよな…。じゃなきゃ、お前がこんなに荒れる訳ないもんな?」
仮に知っていたとしても、こんな事件が起きれば荒れずにいられる自信は、俺にはないけどな…
「こんなことお前に聞くのもなんだが、大野の過去の女性関係は?」
「ない…と思うけど…」
実際のところ、俺達が離れていた頃のことは、俺にだって分からない。
寧ろ知ろうとも思わなかった。
俺達の間に、過去なんて関係ないと思っていたから。
それがまさかこんな形で関わって来るなんて、思いもよらなかった。