第29章 Rouse
そしてあの日はやって来た。
クリスマスを目前に、賑わう雑踏の中で、俺は翔へのクリスマスプレゼントを手に、ショーウインドーの壁に掛けられた時計を見ていた。
翔へ贈るためのプレゼントと同じ時計を腕にはめて…
この年になって揃いの物を身に着けるなんて…、しかも男同士で、なんて正直考えたこともなかったし、馬鹿らしくも思う。
それでも翔の驚く顔と、その後に浮かぶちょっと照れたような笑顔を想像すると、それだけで俺の胸は弾んでいた。
そしてあの鐘…
午後6時…、約束の時間を知らせるあの鐘が鳴った。
ゴーンゴーーン、と…
今思えばあの鐘の音は、地獄の扉が開いたことを知らせるための合図だったんだと思う。
陽気な音楽と、躍り出す人形達は、規則正しく足並みを揃えた、死刑執行人と言ったところだろうか…
俺はその瞬間、それまでの浮かれた気持ちを粉々に打ち砕かれた。
俺を取り囲んだ数人の警察官は、俺をいとも簡単に地面にねじ伏せ、俺の両手に手錠をかけた。
翔の前で…
翔が見ているその前で、俺は成す術もなくアイツらに引き摺られるようにしてパトカーに押し込まれたんだ。
一体何が起きている…
俺が何をしたっていうんだ…
いや、俺は何もしちゃいない…
涙で滲んだ視界に映ったのは、翔のために選んだ、揃いの時計が入った紙袋だった。
無数の足に踏みつけにされて、ボロボロになった紙袋だけが、真っ白になる視界の中に、まるで浮かび上がるように映っていた。