第29章 Rouse
その日、結の様子がおかしいことを、俺はなんとなくだけど、感じていた。
それでもいつもと同じように、一緒に買い物を済ませ、遅めの晩飯の用意をしていたその時、森田が結の部屋を訪ねてきた。
偶然近くを通りかかったから、と森田は言ったが、俺にはそれがどうしても本音だとは思えなくて…
俺は結に、森田に帰って貰うように言った。
でも結はそれを聞き入れることなく、森田を部屋に上げると、森田が持参した酒のためにつまみを用意し、人数分のグラスをテーブルに並べた。
森田が持って来たのは、度数が若干高めのウィスキーで、俺はその後の翔との約束を考えたら、美味い酒を心から楽しむ気にもなれず…
結局、グラスに注がれた酒を、チビチビと一杯飲み干してから、漸くその腰を上げた。
翔が待っていたから…
いや違うな…
俺が翔に抱かれたかったんだ。
あの厚い胸板に…
逞しい腕に…包まれたかったんだ。
でも腰を上げた瞬間、そんな俺の想いを打ち消すように目の前がグニャリと歪み、俺は全ての意識を手放した。
その時、一瞬…だけど、ニヤリと不適に笑う森田の横で、今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめる結の顔が、霞行く視界の中に見えた。
次に目覚めた俺を襲ったのは、激しい頭痛と、まるで吐精後にも似た身体の倦怠感だった。