第29章 Rouse
驚いたことに、彼女…伊藤結も幼い頃に親を無くして施設で育ったらしく、俺達は初対面ながら、意気投合した。
結は、見た目は派手で、如何にも遊んでそうな女だったが、話してみると実際はそうではなく…
その派手な外見からは想像もできないくらい、純粋で、それでいて可愛らしい女だった。
俺は森田の進めもあって、結と付き合うことを承諾した。
結と付き合い始めてからの俺は、それまで恨んでばかりだったどん底の人生に、一筋の光明が差したよな…そんな毎日を過ごしていた。
勿論、そこに男女の関係なんてなかった。
いや、実際には何度か試そうと思ったことはあった。
でもその度に、目の前に翔の、あの困ったような笑顔がチラついて…結局俺は結を抱くことは出来なかった。
そんな俺を、結は一切咎めることもせず、謝罪の言葉を繰り返すだけの俺を、ただ黙って抱き締めてくれた。
いつしか俺は、結の中に、俺を捨てたあの女…母ちゃんの姿を重ねていたのかもしれない。
質素ではあっても、結と一緒に料理を作って、一緒に小さなテーブルを囲む。
そこには恋愛感情なんて必要なくて、結の屈託のない笑顔と、まるで幼い子のような無邪気な笑い声があれば、それだけで良かった。
俺は翔とは決して描くことの出来ない未来を、結とな描けるんじゃないか…そう思っていた。
それあのにアイツは…
森田は一番卑劣な方法で壊したんだ…