第29章 Rouse
森田と初めて顔を合わせたのは…
そうだ、喜多川建設の社員寮だ。
施設を出た後、身内らしい身内なんていない俺は、バイトとして入った喜多川建設の寮に入ることになった。
そこで俺は森田と出会ったんだ。
森田の方が数ヶ月早く入社していたものの、たまたま年も近かった俺達は、意気投合…とまでは行かないまでも、顔を合わせれば色んな話をした。
俺とは環境は違ったが、森田も親に愛されずに育ったせいか、お互い共感出来る部分を持ち合わせていたのかもしれない。
俺は森田と言う男が嫌いじゃなかった。
寧ろ好きだった。
勿論、翔に対する気持ちとは、全く別の感情だが…
だから、正社員となって、寮を出た後も、森田から誘われれば、滅多な事がない限り、断ることもしなかった。
森田と過ごす時間は、俺がどれだけ望んでも得られなかった“青春”そのものだった。
そんなある日、森田が知り合いの女を紹介すると言ってきた。
当然、俺には世間には明かせないまでも、翔という恋人がいたし、何より女相手には俺の“男”としての機能は、全く役に立たないことを知っていたから、最初はずっと断り続けていた。
尤も、そのことを森田にカミングアウトする…なんてことはなかったけど…
でも何度目かの飲み会の席に、アイツ…森田は、彼女を連れて来たんだ。
それが彼女…結たった。