第29章 Rouse
そうしたやり取りが続く中、俺は井ノ原のメモの中に、ある人物の名前を見つけた。
アイツだ…
俺と結を引き合わせた男…
“森田剛”…
その名前を見た瞬間、俺の中に沸き起こる、怒りにも似た感情。
そうだ…森田さえいなければ俺は…
いや、結にしたってそうだ。
森田なんかに関わらなければ、もしかしたら死なずに済んだのかもしれない。
その森田が長瀬さんの工場に火を?
何故だ…一体なんの目的で?
確かに、俺と長瀬さん…そして森田が現場で顔を合わせることも、全くなかったわけじゃない。
そりゃ全ての現場に俺達三人が顔を揃えていたわけじゃない。
でも、俺が知りうる限り、あの二人がそれ程親しくしていた記憶も無ければ、長瀬さんに限って言えば、あの人はそんな人に恨みを買うような人ではない筈だ。
そうでなければ、俺は侑李を長瀬さんに託したりはしない。
何故だ…何故、森田が…
もし…もしも可能性があるとしたら…
それは、“俺”…
“俺と関わったから“だ。
そうとしか考えられない…。
俺は怒りに震える拳をベッドに叩き付けると、くシャリと丸めたメモを便器に投げ入れた。
許せねぇ…
俺の大事なモンを傷つけるなんて…
許せねぇ…
でも今の俺には、どうすることも出来ない。
それが悔しくて、情けなくて…
キュッと唇を噛むと、水洗レバーを足で踏み付けた。
そして流れて行くメモを見つなめがら、沸沸と湧き上がって来る怒りを鎮めようと、柱に刻まれたマサキからのメッセージに手を触れた。