第29章 Rouse
あまりにも俺がしつこく言うから…なのか、井ノ原は渋々ではあるけど、俺の頼みを聞き入れ…
長野の協力の元、独自のルートで情報を得ては、その情報を俺に流した。
ただ、井ノ原と顔を合わせることが出来るのは、週に一度。
それも五分と持たない短い時間で、しかも迷惑なことに監視付きだ。
その短時間の中では、当然込み入った話が出来る筈もなく…
もう一人、協力してくれる人物が必要だった。
俺はその役目を、彼女…結に面差しの似た、あの看護師に頼んだ。
彼女は、見つかれば厳しい処罰を受けるのを覚悟の上で、二つ返事でそれを受け入れてくれた。
そして朝と夕方、二回ある回診の時間を利用して、俺に井ノ原からのメモを届けた。
井ノ原からのメモは、毎回細かな文字で事の詳細が書き記されていて、俺は一通り目を通すと、それを剥き出しの便器の中に投げ入れた。
水と一緒に流れてしまえば、メモが見つかるのを避けることが出来るだろうと考えてのことだった。
自らの立場が奪われるかもしれないリスクを冒してまで、俺に協力してくれる二人を…そして長野を、これ以上危険な目に合わせる訳にはいかなかった。
俺のために…
俺なんかのために、もう誰も傷ついて欲しくなかった。