第28章 Regret
俺と岡田の間に沈黙の時間が流れた、その時だった。
廊下を隔てた事務所兼応接室から電話の音が聞こえ、それが止むと同時に、長瀬さんの物だろうか…怒鳴り声が響いた。
何事かと頭を上げた俺は、思わず岡田と顔を見合わせ、覚束無い足取りを岡田に支えられながら応接室に入った。
「何かあったんですか?」
「どうもこうもありませんよ…。…たくっ!」
岡田の冷静な問いかけに、長瀬さんが吐き捨てるように答える。
その顔はいつになく険しく、地団駄を踏む足は、長瀬さんの苛立つ心境をより一層濃くしていた。
隣に座る松本ですら、どうしたものか困惑の表情を浮かべている。
「さっきの電話が何か?」
元いた場所に腰を下ろし、岡田が長瀬さんに向かって首を傾げる。
流石に修羅場をいくつも潜ってきただけあって、岡田に動揺した様子など微塵も感じられない。
「差し支えなければ、話して頂けませんか?」
おそらく…だが、岡田はさっきの電話に、大凡の見当を付けている…
俺はそう感じた。
「もしかして放火犯について、侑李から何か?」
そう言えば、長瀬さんの電話の着信音…
あれは確かに、侑李からの着信を知らせるメロディーだった。
岡田はそれをちゃんと記憶していて、尚且つそれを聞き逃さなかったんだ。
「ええ…、まあそんなとこですわ…」
図星を言い当てられた長瀬さんが、長い息を吐いた。