第28章 Regret
ある程度は予想していた。
刑務所という、世間とは隔絶された世界で、そういった行為が行われていることだって、全く知らなかったわけじゃない。
そこまで俺だって子供ではないし、無知でもない。
でもまさか…
松本は確かに“姦した”と言った。
それは複数の男が智君の身体に触れたことを意味する。
しかもそれ以前に誰かが…?
「ウッ…、グッ…」
嘘だと言ってくれ…
こんなの…耐えられないよ…
「おい、櫻井? 無事か?」
中々戻らない俺を心配したのか、岡田がトイレのドアを叩いた。
でも…
「ウッ…、ウェッ…」
立ち上がろうとした瞬間に襲って来る激しい吐き気に、俺はその場から動けずにいた。
「開けるぞ?」
言うが早いか、岡田がトイレのドアを開いた。
そして便器に顔を突っ込むようにして嘔吐する俺の背中を、そっと摩ってくれた。
「なあ櫻井? お前には酷な話かもしれないけど、割り切れ」
「何が…言いたい…」
「お前は大野の恋人である以前に、弁護士だ。公私混同するのはやめろって言ってんだよ」
公私混同?
俺が?
「俺は別に…。それに、十分割り切ってるつもりで…」
「ああ、確かにお前は割り切ってるつもりだろうな。でもな傍から見てると、そうは見えないんだよ」
ショックだった…
常に隣で俺を支え、見守ってくれていた岡田からの言葉が、俺の傷だらけの胸に深く突き刺さった。