第28章 Regret
ただ同時に疑問も浮かんで来る。
松本代議士と智君の間に、何の繋がりが?
智君の口から、松本代議士の名を聞いたことは、ただの一度だってない。
なのにどうして?
松本代議士がわざわざ弁護士の手を借りてまで、智君に報復とも取れるような仕打ちをしたのは何故だ。
それも息子である潤を使って…
「君は、大野さんと同房になる以前に面識、若しくは名前を耳にしたことは?」
松本代議士が関わっているとしたら、松本が智君のことを知っていた可能性がある。
「いや…、面識なんかねぇよ。それに名前だって聞いたことなかったし…」
「…そうか…」
「それに、俺だけじゃないと思うんだよな…」
松本が顎に手をかけ、何かを考え込むように首を捻る。
「どうしてそう思うのかな?」
「いやな、アイツ…、俺らが姦(まわ)す前に、誰かにヤラレてんただよ」
一瞬、俺の全身から、血液という血液が、音を立てて流れ落ちて行くのを感じた。
そして込み上げてくる吐き気…
智君からも聞かされていなかった事実に、目の前が真っ暗になる。
「お、おい、大丈夫か?」
堪らず両手で顔を覆った俺の肩を、岡田の腕が支えた。
「済まない…、少し休ませてくれないか…」
それだけを言うのが精一杯だった。
俺はフラフラと事務所を出ると、すぐ様トイレに駆け込んだ。
吐き出す物なんて何も無いのに、込み上げてくる吐き気を堪えることが出来なかった。