第27章 Face
「そうか、君の話は大体分かった。では、質問を変えようか…」
そう言って岡田がそれまで松本に向けていた視線を、今度は長瀬さんに移した。
「さっきお聞きした話をしても?」
余程松本の話に聞き入っていたのか、急に振られて長瀬さんが慌てたように姿勢を正した。
「さっきの…ってのは…」
「彼を迎えに行く時、車の中で話てくれたことです」
「あっ、ああ、ええ、ええ、勿論ですとも。構いませんよ?」
長瀬さんが少々大袈裟なくらいに頭を振る。
その姿に、一瞬…だけど、その場の空気が柔らいだような気がした。
その時だった。
事務所の電話が鳴り響き、一番近くにいた侑李が受話器を手にした。
「もしもし…、あ、はい…えっと…ちょっと待って下さい」
侑李は保留ボタンを押すと、受話器を一旦事務机の上に伏せて置いた。
「誰からだ?」
長瀬さんが聞くと、侑李は複雑な表情を浮かべた。
「あの…、警察からで、面通しの件でって…」
松本の事で頭がいっぱいで、すっかり頭から抜け落ちていたが、放火犯が捕まったと連絡を貰っていた事を思い出した。
「そう言えばそうだったな…」
俺と同様、岡田もその事を忘れていたのか、髭を蓄えた顎を手で撫でた。
「あの、僕行ってきましょうか?」
名乗りを上げたのは、深山さんだった。