第27章 Face
事務所内に、再び沈黙の時間が訪れる。
言葉を失くしたわけではない…松本の口から、次に何が語られるのか…、その場にいる者全てが期待にも似た感情で待っていた。
松本もそれを分かっているのか、全員の顔をグルリと見回すと、不敵…とも思える笑をその顔に浮かべた。
そして湯のみのお茶を一口啜ると、空になった湯のみを無言で侑李に向かって差し出した。
「もう一杯くれ」
「あ、は、はい…」
湯のみを受け取った侑李は、急須にポットからお湯を注ぐと、暫く待ってから湯のみに熱々のお茶を注いだ。
「…どうぞ…」
差し出された湯のみを受け取った松本は、それに口を付けることなく、テーブルの上の茶托に置き、長く息を吐き出してから、その口を開いた。
「それからの俺は、概ねアンタらが調べた通りだ。ただ…」
「ただ、何だ?」
「アンタらが調べたのは、ほんの一部でしかない、ってことだ。ム所に入れられるまで俺は、とにかく思いつく限りの悪事を働いてきた。心優しい代議士先生の仮面を被った親父を困らせてやりたくてな…。でも親父は、弁護士と連んでは、尽く(ことごとく)揉み消しやがったんだ…」
松本が右手に作った拳を、左手に叩き付けた。
確かに、現在は現役を退いているが、松本の父親は仮にも代議士と名乗る程の人物だ。
身内…ましてや息子が警察に厄介になったとなれば、世間は黙っちゃいないだろう。
でも、松本が起こした事件のどれもが、公にはなっていない。
その裏にはやはり、普通の人間では到底手の届かない、権力が働いていた、と考えるのが妥当なのだろうか。