第27章 Face
松本が息をフッと吐いて、天を仰いだ。
「でもな、段々と年を重ねてくと、それまてはただただ純粋に凄いと思ってた親父の“裏の顔”っつーか…そんなんが見えてくるようになってな…。親父は世間が思うような、聖人君子でもなければ、真っ当な人間でもなかったんだよ…」
俺の親父だってそうだ。
世間では、神だ仏だの言われているが、そんなのは所詮表の顔。
俺は今でも忘れない。
両親に捨てられ、生死の狭間を彷徨っていた智君に向けた、親父のあの目を…
まるで汚い物でも見るような…嫌悪に満ちた目を…
俺は忘れちゃいない。
きっと松本も…
「町の人間が親父をチヤホヤしてたのは、ただ“代議士先生”の後ろ盾が欲しかっただけで、親父はそれを分かっていながら、後ろ盾になる代わりに、そいつらから金を巻き上げてたんだ。
ショックだったさ…。俺達が何不自由なく生活出来てたのは、親父が汚いことして稼いだ金だったんだからな…」
そこまで言うと、自嘲するように笑い、ギリッと奥歯を噛んだ。
心から信頼していた相手に裏切られた時の衝撃は、想像するに余りある。
きっとその事が、松本を非行に走らせる原因になったのではないか、と俺は考えた。
俺にも覚えがある。
松本のように、非行には走らなかったものの、親の敷いたレールから、智君のために…いや、自分のために外れたのだから。