第27章 Face
それまでズシッと重たかった空気が、長瀬さんのおかげで一気に軽くなった。
と、同時に松本の気持ちにも変化が現れ始め、それまで見るからに頑なだった松本の表情が一変した。
「さっきの質問だがな? 親父の跡を継ぐとかなんとかってやつ? 実を言えば、継ぐつもりだった。…いや、寧ろ“継ぎたい”と思ってたよ…。高校卒業する前まではな…」
丁度その頃だ…
松本が窃盗の罪で補導されているのは…
それ以前は、どこを見ても染み一つない、綺麗な経歴だ。
高校を卒業する直前に、松本の身に一体何が起きたんだ。
人一人の人生を簡単に変えてしまう…そうなった原因がある筈だ。
「どうして夢を諦めてしまったのか、教えてくれるか?」
岡田も考えていることは俺と同じ。
そして深山さんなも…
「俺ん家は、爺さんの代から続く代議士の家ってことで、地元ではそれなりに有名な家だった。“名士”ってやつだ。だからかな…、餓鬼の頃から、色んな人間が家には出入りしててな…。皆が皆親父に向かってペコペコ頭下げんだよ。それ見て、子供心に“親父は凄い人なんだ”って思ってた」
同じだ…。
俺が歩んで来た道と、松本が歩んで来た道は、“弁護士”と“代議士”の違いなだけで、同じなんじゃないか…
ただ一つ違うとすれば…
俺は親父の跡を継いで弁護士になった、ってことぐらいか…