第27章 Face
松本を連れて工場に戻ると、俺達が出た時に比べれば状況は進展しているものの、焼け焦げた嫌な臭いだけはそのままで…
「すげぇ臭いだな…」
車を降りるなり、松本が小さく吐き捨て、端正な顔を歪ませる。
「まあ、暫くは続くだろうな…」
松本の荷物を手に、ネクタイを緩めながら、長瀬さんも同じように顔を歪ませた。
「あっ、お義父さんおかえりなさい」
声を聞きつけたのか、停めてあったバンの後ろから、白い顔を煤で黒く染めた侑李が顔を出した。
いつの間にか、“お義父さん”と呼べるようになった侑李が、少しだけ逞しく思える。
「おう、悪かったな、片付け任せちまって…」
「ううん…。それより、その人が…?」
長瀬さんの後ろに隠れるように立つ松本を覗き込む。
「ん? ああ、松本だ」
挨拶しろとばかりに長瀬さんが前に押し出すが、当の松本は顔を背けたままの仏頂面だ。
対して侑李はと言うと、終始笑顔を絶やさずにはいるが、その目の奥に怒りのような物を僅かに抱えているような…そんな気がした。
当然だ…
侑李にとっても智君は、初恋の相手と言っても過言ではない。
その智君を傷つけた相手が目の前にいるとなれば…
冷静でいられる方がおかしいのかもしれない。
「こんな所で立ち話もなんですから、とにかく中入りません?」
工場の奥から出てきたのは、シャツを所々黒く染めた深山さんだった。