第27章 Face
「僕、お茶淹れてきます」
事務所に入り、漸く腰を落ち着けた時、侑李が思いついたように言った。
おそらくそうでもしてないと気持ちの整理がつかないんだろうな。
実際の所、俺もそうだから…
「俺も手伝うよ」
テーブルにファイルを広げ始めた岡田と深山さんを残し、俺は侑李の後を追って給湯室へと入った。
急須に茶葉を入れ、ポットを手にしたまま動けずにいる侑李の肩を叩いた。
「あ、えっ、ああ…、ありがとうございます」
侑李が慌てたように、ポットを急須に傾けた。
「あの…さ、複雑…だよな…」
俺も…、侑李も、きっと考えてることは同じなんだろうな…
「櫻井さんは、その…平気なんですか?」
平気なわけないじゃないか…
でも、智君の冤罪を証明するには、彼の…松本の協力は、少なからず必要になってくるのは間違いない。
味方は少ないより多い方がいいに決まってるから…
それに今の俺は、曲がりなりにも弁護士だ。
法の前では、全ての人に公平でなければならない。
「そうだね…、平気、と言ったら噓になるけど、それでも俺は智君のためなら、たとえどんな話を聞かされたとしても、耐えなきゃいけないから…」
「そう…ですよね。櫻井さんはやっぱり強いな…。僕なんて…」
それは違うよ…
俺だって本当は強くなんかないんだ。
でももしも、俺が強いんだとしたら、それは智君への思い…からなのかもしれない。