第27章 Face
そうして長瀬さんを待つこと、数十分…
鉄の門が開き、長瀬さんが一人の男と連れ立って門を潜る姿が見えた。
「お待たせしちゃってすんません…」
目が合うなり、長瀬さんが頭を掻きながら下げる。
「いえ…。で、そちらが例の“松本さん”ですか?」
岡田が長瀬さん背に隠れるようにして立つ男を覗き込んだ。
「そうです。ほら、挨拶しろ」
長瀬さんに促されて、男が一歩足を踏み出す。
けど、その顔は俺達に向くことはなく、視線も合わせようとはしない。
嫌な奴…
それが最初に“松本”を見た時の、率直な俺の感想だった。
でもそう思ったのも束の間…
次の瞬間見せた松本の行動に、俺は勿論のこと、岡田も、そして長瀬さんも言葉を失った。
松本はその場に膝を折ると、頭を地面に擦り付けるようにして、深く下げたのだ。
そして、顔を上げることなく、肩を震わせた。
「お、おい、顔を上げてくれないか?」
これには流石の岡田も動揺を隠せず、俺と長瀬さんの顔を交互に見ては、松本の震える肩をそっと叩いた。
「いいや、俺はアンタらに顔向け出来ねぇようなことを、アイツにしたんだ。顔なんて上げらんねぇよ…」
泣いてる…?
涙は流さずとも、心が泣き叫んでるんだ…
智君を思って…
松本の震える背中を見ながら、俺はぼんやりとそんなことを考えていた。