第27章 Face
それから俺達は特に会話をすることなく…
気づけば、高い塀に囲まれた建物のすぐ側まで、車ははやって来ていた。
「覚悟は出来てるか?」
今更な質問を、岡田が俺に向かって投げかける。
“出来てる”…
そう胸を張って言えたら、どれ程楽なことか…
「分かんないよ、実際に顔見て見ないと…」
どう答えるべきなのか、迷っているうちに、つい本音が口を付く。
「まあ、そうだろうな…」
岡田はクッと笑って、一旦車を降りると、後部座席のドアを開けた。
「俺達、ここで待ってるんで…」
通常、刑務所を出所する際は、出所式が行われ、そこで宣誓文を読まされた後、所長なり副所長が式辞を述べて、漸く外の世界にでることが許される。
その間、身元引受人はロビーなりで待つことになる。
必要な手続き等は、事前に済ませてあるから、後は無事に身柄を引き受けるだけだ。
「じゃ、行って来ますわ…」
長瀬さんは車はを降りると、それまで窮屈そうにしていた身体を、グンと伸ばしてから、俺達に向かって頭を下げた。
「ええ、お願いします」
それに応えるように俺も頭を下げる。
「お任せ下さい」
そう言って胸を叩く長瀬さんだけど…
その顔は、どこか不安そうで…
きっと俺と心中を察してのことだろう…、と俺は感じた。