第4章 Confusion
あの日、雑踏の中で見た光景が瞼の裏に焼き付いて離れない。
観衆の見守る中、数人の警察官に取り押さえられ、手錠をかけられた君の姿…
あの時、ほんの一瞬だけど君と目が合ったのは、俺の気の所為?
違うよね?
君はあの時、俺に向かって“助けて”って叫んでたんだよね?
でも、俺はその場から動くことすら出来なかった…
君が連行されて行くってのに、ただ涙を流すだけで、声すらかけることが出来なかった。
情けないよな…
あの瞬間、おれが何を考えたか分かる?
パトカーに乗せられる君のことよりも、俺は自分自身のことを真っ先に考えたんだ。
自分の保身を…
君が俺との面会を避けてるのは、それが分かってるからなんだろ?
恋人のことよりも、俺自身の将来を選んだ俺を、君はきっと恨んでるだろうね?
ごめんね、智君…
君を守ってあげられなくて…
ごめん…
左腕に嵌められた腕時計にそっと唇を寄せる。
あの日、智君が落としていった紙袋の中に入っていた物だ。
無数の足に踏みつけにされ、文字盤にもヒビが入っていしまったけれど、それは止まることなく時を刻んでいる。
俺達の”時”はまだ止まってないんだよね?
止めちゃいけないんだ…