第4章 Confusion
有効な手段も見つからないまま、無常に時間だけが過ぎた。
面会に行った岡田の話によれば、智君は上告することを拒んでいる、という事だった。
仮に俺達弁護士ご上告したところで、智君が控訴を取り下げるのは、火を見るより明らかだった。
あの証拠さえ無ければ…
智君の収監される日が決まったと、岡田から連絡を貰った朝、俺は取るものもとりあえず、智君が留置されている拘置所へと車を走らせた。
一目でいい…
後ろ姿だけでもいい、智君に会いたい…
拘置所から少し離れた場所に車を停め、バスに乗り込む人影の中に智君の姿を探す。
「智君…!」
思わずハンドルに身を乗り出す。
少し猫背気味の君の後ろ姿…
俺が見間違える筈なんてない。
「智、ごめん…」
俺の声なんて届く筈ないのに、何度も君の名を呼んだ。
「さと…さと…しっ!」
刑務所へと向かうバスが発車すると同時に、俺はハンドルに顔を埋め、声を上げて泣いた。
涙が枯れるまで…
声が潰れるまで…
泣き叫んだ。
俺は知らなかったんだ、君を失うことがこんなにも辛い事だったなんて…
手足をもぎ取られたみたいに、心が痛いよ…。