第27章 Face
俺達を乗せた車が走り出しても、俺達の間に会話はない。
と言うよりは、俺を気遣っているのかもしれない。
俺が緊張を隠せないから…
俺はジャケットの襟に着けた弁護士バッジを、無意識の内に握り締めていた。
そして軽く瞼を閉じると、瞼の裏に智君のはにかんだ様な笑顔を思い浮かべた。
大丈夫…俺は大丈夫だよ。
智君のためなら俺は、何が起きたって耐えられるから…
大丈夫…
自分に言い聞かせるように、俺は拳をこっそり握ると、瞼を開いた。
「あの、長瀬さん。その“松本”に会う前に、一応最終的な摺り合わせしときませんか?」
後部座席の長瀬さんを振り返り、手元のタブレットを開いた。
「まず、松本と長瀬さんの出会いは、現在“松本”が収監されている刑務所で間違いはないですね?」
「ええ、ええ、そうです。俺が出所する、丁度一年くらい前ですかね…アイツが収監されてきたのは…」
一年、か…
お互いの信頼関係を得るには、充分な時間かもしれないな。
「その時の“松本”の様子とか、覚えてますか?」
「そりゃもう、忘れようたって忘れられませんよ。何せ、滅茶苦茶な奴だったんでね。
元々アイツは族のリーダーでしてね…それも結構な人数束ねてたそうなんですけどね」
長瀬さんの話からも、“松本”が、人望に熱い男だってことが感じ取れる。