第27章 Face
岡田の問いかけに、長瀬さんは無精髭を蓄えた顎を摩ると、うーんと唸りながら首を傾げた。
「確かにあるっちゃ、ありますけどね? 何せ俺も昔は相当なことしてきたんでね? ただ、こういうのは、今まであんまりなかったことですね」
やはり怨恨の線が強いんだろうか…
と、なると智君の事件とは無関係ってことになる。
でも果たしてそうなんだろうか…
長瀬さんの周りには、智君と関わりを持った人間が、少なからずいるってことは、紛れもない事実だ。
現に侑李だって…
「おい、櫻井? 何ボーッとしてんだ? そろそろ行くぞ?」
「あ、ああ…うん」
胸の中に靄がかかったような…スッキリしない気持ちのまま、俺は岡田の車に乗り込んだ。
長瀬さんはもう後部座席にその長身を埋めている。
「じゃ、深山、後は頼んだぞ」
「はい。こっちの事はご心配なく。兎に角、その“松本”やらを無事にお願いしますよ」
白いシャツを、ところどころ煤で黒く染め、深山さんが額の汗を拭った。
正直、深山さんがいてくれて、良かったのかもしれない。
この状態で、侑李一人を工場に残しておくのは、不安でしかない。
ただでさえ“松本”に会うことに、未だ戸惑いを感じているのに…